[No.24]
女優 金久美子(KIM kumijya)
投稿者:
投稿日:2004/12/19(Sun) 12:42
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もう12月を半ばも過ぎた。 硝子越しに見える庭に、シャコ葉サボテンの花が咲き始めた。 クリスマス・カクタスとも呼ばれるように、この頃になると忘れず開花する。 放射線状に伸びた葉の先に咲く美しいピンクの花は、そこだけ明りが灯されたように華やかだ。 一つ、又ひとつ・・・次々と咲く様は、それぞれの思い出にスポットを当て、 せわしく過ぎた日々の記憶を呼び覚ます。 今年はいつにも増して、喜びと悲しみが入り混じる年だった。 その中でも一番辛かったのは、この秋に、若い友を亡くしたことだ。 東京に暮らす友と会えるのは、彼女が地方公演などで関西に来る時だけだった。 彼女は「女優」だった。 彼女を初めて見たのは、「新宿梁山泊」のテント公演だった。 舞台中央奥、満月をバックにスクッと立つシルエットの美しさは、一瞬にして観客を舞台の世界に誘った。 よく透る声は、腹式呼吸で鍛錬されたものではあろうが、違う何かを感じさせた。 山河を越え、海を渡り、長い歴史に刻まれた記憶が、時を得たかのように、遥かな呼び声を、客席に届けた。 彼女は、テレビ・映画・舞台で、主役・脇役をこなし、レポーターもできる実力派であった。 とりわけ舞台では、”華”があった。 ベテラン大女優の声さえくぐもる大きな舞台でも、 彼女の声は隅々まで響き、観客の心に感動の余韻を残した。 もう、6年も前になる。 大阪での舞台を終えて、プロダクションの代表や親しい人たちと食事をした後に、 女3人だけで、北新地のビルの2階にあるお店へ行った。 そこは、オーナーやスタッフがジャズやポピュラー音楽の生演奏を聴かせてくれる、ちょっとお洒落なバーだった。 グランドピアノの回りがカウンターになっているその止まり木に、3人で座った。 お客さんが飛び入りでジャズを歌い演奏する家庭的な雰囲気を、彼女はとても気に入った。 その店で、彼女は40歳の誕生日を迎えた心境など、それまでの人生を振り返り、 これからは芝居だけでなく、新しい仕事にもチャレンジしていくのだと、熱く語った。 その後、電話で話した別れ際には、決まって彼女は付け加えるのだった。 「又、あの店へ行こうね!」と。 去年の春、彼女が病気で大きな手術をしたと、人伝に聞いた。 すぐに電話をしたが、留守番電話のテープから、彼女の声が聞こえるだけだった。 季節が変わる頃に、彼女から便りが届いた。 故郷へ戻って、久し振りに両親に甘えながら養生をしていると、書かれていた。 今年の春、テレビのサスペンスドラマで主演をした彼女を観て、てっきり健康を取り戻したのだと、ひとり喜んだ。 そして、テレビを観ながら、「今年こそ、一緒にあの店へ行こう…」と思っていた。 季節が進んで秋になり、我家の長女が出産した。 我が子の臍の緒を切り、父親の役目に一区切りつけた婿殿″は、 「妻と子どもをよろしく・・」と、引き延ばし続けた仕事に追い立てられるように、地方の仕事に赴いた。 初孫の誕生に喜び、我家で養生する娘と孫を迎える直前に、訃報は届いた。 東京で行われる通夜・葬儀に参加するには時間が許さず、一人東に向かって手を合わせた。 葬儀を終えた午後の時間に、もう一度彼女の声が聞きたくて、せめて留守番電話のテープの声だけでもと、主のいない住まいと知りつつ電話をかけた。 受話器の向うから、いつものよく透る声が聞こえてきた。 が、留守番電話のテープではなく、電話の声は彼女の妹さんだった。 そっくりな声を聞くと、新たな哀しみが胸にこみあげてきて、お悔やみもしどろもどろに伝えるので精一杯だった。 聞くと、遺骨はお父さんの手で、生まれ故郷の信州に運ばれる予定だという。 新聞各紙に訃報とともに載せられた写真の彼女は、どれも美しい表情を湛えていて、 「私、いい女優になったでしょ!」と、今にも語りかけてきそうに思えて、又胸が熱くなった。 お父さんが漢方に通じた仕事をされていることへの遠慮もあったが、 【TF】製品を勧めることは、お金の介在することでもあり、避けていた私だった。 友人達から彼女の死を悼む電話やメールが届くたびに、悲しみを一層深めた。 そして、たった一度だけ、まるで免罪符のように【TF】製品をお見舞いに送った自分が、辛く悔やまれた。 顔も知らない方たちに【TF】製品で健康を回復してもらいながら、なぜもっと真剣に伝えられなかったのかと…。 今年に届いた手紙の整理をしていたら、彼女からの絵葉書が出てきた。 「追伸:又、あの店へ行こうね!」と、きれいな文字で書き添えられている。 6年前、そのお店を出るときに、スタッフの人に声をかけられて立ち止まった彼女。 素顔であったに関わらず、人目を惹く彼女の魅力は、お店の方も気になられたようで、「お仕事は?」と、問われた。 「女優です」と、よく透る声で応えた彼女を、まるで舞台の一場面のように、店の入り口のスポットライトが、華やかにシルエットを曳いていた。